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The Botanical Society of Tosa

土佐植物研究会

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2013年4月14日(日)第471回月例会(四万十市ほけが森,勝間川)が開催されました.

 久しぶりに,土佐植物研究会月例会の担当になり,今日という日が来なければ良いがと思っていましたが,月日は容赦なく,やってきました.参加者の方々を見ても,ラッキーと思うか,アンラッキーと思うか,私が最年少であることは間違いないようです.おまけに今回同行予定の地元,勝間川区長も風邪のためダウンとの連絡があり,大きな損失のもと,実施されることになりました.参加者は19人という大人数となり,ほけが森(標高751m)の山の神様もびっくりされたのではないかと思います.むろん「ほけ」とは,こちらの方言で「湯気」のことであり,山頂直下に湯気の噴出する岩穴があることに由来します.びっくりして噴火ということも有り得る訳です.
 午前9時20分に「サンリバー四万十」で私と合流して,四万十川に沿う国道441号線を北上し,鵜の江沈下橋を渡って,ほけが森のある勝間川へ入りました.沈下橋からは,川沿いの岩場に,キシツツジの花の咲いているのが見えました.やがて舗装も切れ,林道を進んでいきます.途中,いたるところに花を終えたムロウマムシグサ(ウワジマテンナンショウ)(上,撮影:山岡重隆)が見られました.偽茎が花柄よりも極端に長くなる特徴がありますが,葉の形が様々で,典型的なタイプというのが今一つ釈然としません.いつものことながら,寄り道が想定以上に多く,登山口に着いたのは,午前11時を過ぎていました.黒尊(鬼が城)山系からこのほけが森,鍋が森にかけての山地は,鹿による食害が深刻なところで,鹿が食べ残した,マツカゼソウ,レモンエゴマの残骸,新芽,香りだけが目立ちます.鹿に加えて,イノシシ,サルなどもかなり多く生息しており,これが更に追い打ちをかけています.登り口からいきなりハシゴという急登です.これに驚かれた方もおられたと思いますが,これはここだけで,登りきれば,足元の良い登山道が山頂まで続いています.四万十川流域で標高600~800m前後の山というのは,高木層にアカガシが圧倒的に多く,これにウラジロガシ,コジイ,イスノキ,ユズリハ,ヤブニッケイ,カクレミノ,カゴノキなどが混生する特徴があり,ほけが森もその典型的な植生を成しています.その下部には,イヌガシ,ハイノキ,サカキ,ヒサカキ,シキミ,リョウブ,ウリハダカエデなどが多く生じています.特に,ほけが森ではサカキ,シキミが多産していることから,地元の区長さんには,「四万十(ほけが森)産高級サカキ・シキミ(ご利益数倍)」として売ってはどうかと提案もしているところです.2週間前に,鴻上氏,黒岩和男先生と下見をした際には,この時期いっせいに落葉するアカガシの葉のために大変滑るのではないかという懸念もありましたが,幸いウリハダカエデ,イタヤカエデ,ホオノキなどの落ち葉によって緩和されていました.新緑の林の中というのは,若葉の色と香りが大変心地よく,特に,リョウブ,イタヤカエデ,ウリハダカエデ,オンツツジなどの芽生えたばかりの葉はひときわ鮮やかで,山道を歩く心を和ませてくれました.足元には,腐生植物のギンリョウソウ(左端,撮影:杉村和男)の花が多く見られました.また,芽生えたばかりの,田城さんご婦人の話では,オオバノトンボソウの葉を確認しました.この山には腐生植物の類が多く,その時期になれば,ムヨウランの仲間やツチトリモチが多く現れます.登り始めのあたりでは,生垣などによく使われる,イヌマキが多く見られました.道中,大きなコジイが所々で倒木しています.恐らく,山の南側が伐採され,植林されたヒノキが幼齢林の頃に,強風をまともに受けたものだと思います.山頂に近づくにつれて,アカガシの巨木が目立つようになります.下草はイチヤクソウや山陰型コタチツボスミレ,ヒメミヤマスミレ,シハイスミレ,コクランの葉が見られた程度で,まだ時期的に少し早いようです.あえぎながら登られた方も,平常通り登られた方も,12時過ぎに無事,全員,山頂に到着しました.

 視界良好時には南に,四万十市街,四万十川,赤鉄橋,太平洋を,東側に,宿毛市~大月町にかけての海岸線,沖の島,姫島,鵜来島,豊後水道が一望できるのですが,春霞のために展望は効きませんでした.山頂には,通称,「天使の三角点」があり,ホオノキ,イタヤカエデ,コハウチワカエデなどが多く,ヒメシャラも一本だけ生えています.こういった木々を見ると,さすがに高い山に登ってきたなと思います.更に北尾根線を進んでいると,登山道脇にはホンシャクナゲ(左から2,撮影:山岡重隆)があちらこちらに生えており,既に到着された方々が,西側に開けた場所で昼食をとられていました.ここからは,眼下に西土佐中半の四万十川が見えます.またほけが森から下表山(しもおもてやま,標高607m)へ延びる尾根線は,四万十川源流,鶴松森(標高1100m)から見る北山の景観に似ており,なかなか迫力があります.視界良好時には,鈴が森(標高1054m,旧窪川町),不入山(標高1336m,旧東津野村),四国カルストの山々を望むことができます.私の計画では,ここは昼食場所ではなく,後続組はそこから少し下ったホンシャクナゲ群生地で昼食にしました.ここからの眺めは,まさに絶景.手前にホンシャクナゲ,眼下に西土佐玖木,黒尊の集落,西に篠山(標高1065m,宿毛市),瀬戸黒森(標高946m,宿毛市),正面に大黒山(1106m,西土佐黒尊),Ⅴ字に切り立った黒尊渓谷,その奥に八面山(標高1165m,西土佐黒尊),右へ串が森,目黒鳥屋(めぐろとや),三本杭(標高1226m,愛媛県宇和島市,この山麓に滑床渓谷),高月山(標高1229m,愛媛県宇和島市),東高月山(標高1181m,愛媛県宇和島市),郭公岳(標高1010m,愛媛県松野町,この山麓に,虹の森公園),玖木集落の上方に,戸祇御前山(標高946m,愛媛県旧日吉村)その右に長山(標高940m,愛媛県旧日吉村,この山麓に,道の駅日吉夢産地),その右に地蔵山(標高1128m,旧十和村)などの山々が見渡せます.視界良好時には,戸祇御前山の後方に,大野が原(標高1403m,梼原町),四国カルストに立つ二基の風車,笠取山(標高1562m,愛媛県久万高原町),西日本最高峰の石鎚山(標高1982m)まで望むことができます.残念ながらシャクナゲはまだつぼみでしたが,カンサイスノキ,リョウブ,コハウチワカエデなどの新緑が見事な景観をバックにして,実によく映えていました.かなりお疲れモードの方もいらっしゃいましたが,この景色を見て,疲れも吹っ飛んだのではないかと思います.「これに懲りて,土佐植物研究会を辞めないようにしてください」と話したところ,細川氏から,そっくりそのまま返されて,これには,無条件降伏でした.ここで記念撮影をして,往路を下山しました.上りの時には全く気がつきませんでしたが,登山口にコミヤマスミレ(右から2,撮影:杉村和男)が咲いているのを,おそらく頭の中は今,ほとんどスミレのことでいっぱいの細川氏が見つけていました.乗車後,これでは消化不良だと思う山岡会長のために,山麓の男蛇渕(おんじゃぶち)の滝へ移動しました.現地へは,病をおして勝間川区長の宮川啓氏も駆けつけてくれました.名は,昔,この滝壺に大蛇がいたという伝説に因むそうです.滝一帯は一枚岩で滑状になっており,滝の側には,イワタバコ,ウワバミソウがたくさん着生しています.滝の近くでは,渓流沿いに多いアケボノソウの葉が多く見られました.滝の入り口では,ヤマイバラがたくさんつぼみをつけており,リンボクがたわわに実をつけていました.次に,宮川区長の先導で,四国では勝間川にしかないというサクラツツジ(分布北東限)(右端.撮影:山岡重隆)を見に行きました.本種が見頃になるのは,例年,4月下旬から5月上旬にかけてです.行きの際には全く気付かなかったのに,さすがは地元の区長さんです.花が咲いているところへ,案内してくれました.花の赤いオンツツジや川沿いの岩場にはキシツツジも咲いており,ここで,例会は写真撮影会に化しました.私は地元の人間ですので,毎年,サクラツツジを見ていますが,ブライダル・ピンクの花には,何度見ても,圧倒的な美しさを感じます.花がオンツツジとサクラツツジの中間的な色をした個体もあり,雑種ではないかと議論になりましたが,結論は出ず,鴻上氏によって採集され,詳細な分析が行われるとのことです.花の色は確かに微妙ですが,葉は限りなくオンツツジに近いように思います.この時点で既に午後3時を過ぎており,ここで区長さんにお礼を言って別れました.サクラツツジが見られたことで,フィナーレを飾るにふさわしい例会になりましたことを,この場を借りて,勝間川区長宮川啓氏にお礼申し上げます.その後,ここから近いデンジソウ自生地を見に行こうというグループと,スミレの仲間を見に行こうというグループとに分かれ,私は後者の方へ回りました.時間が遅くなっており,ゆっくりと観察できませんでしたが,タチツボスミレ,ナガバノタチツボスミレ,ニオイタチツボスミレ,ヒメミヤマスミレの花,センブリなどを確認しました.
 本当は,アワモリショウマ,ハルノタムラソウなど渓流沿い植物も観察していただこうと考えていたのですが,時間の都合により割愛させていただきました.どこで,この例会の閉めが行われたのかわからないまま,私達は,そのまま車を分乗した市立中央公民館へ戻りました.これが例会終了時間だとすると,4時30分頃になります.
 今回,私と合流場所にしていたサンリバー四万十が,ちょうど市長選の告示日と重なって,混雑しており,急きょ,かわらっこに変更するということになって,大変,ご迷惑をおかけしたこと,申し訳ありませんでした.遠方からお越しになられた皆さんには,大変お疲れさまでした.繰り返しになりますが,これに懲りずにまた時期を変えて,春はサクラツツジ,キシツツジ,シャクナゲ,夏はアワモリショウマ,ムヨウラン,イワタバコ,秋はホトトギス類,アケボノソウ,ツチトリモチ咲く勝間川~ほけが森へぜひ,お越しください.単独で観察に出かけることの多い私ですが,大勢で出かけたことで,いろいろと話も弾み,楽しいひとときを過ごすことができました.ありがとうございました.(杉村和男)

場所:ビロウ島・沖ノ島方面 撮影:杉村和男
場所:ビロウ島・沖ノ島方面 撮影:杉村和男
場所:天使の三角点(ほけが森山頂) 撮影:山岡重隆
場所:天使の三角点(ほけが森山頂) 撮影:山岡重隆
場所:姫鶴平・天狗高原方面・鳥形山・入不山方面 撮影:杉村和男
場所:姫鶴平・天狗高原方面・鳥形山・入不山方面 撮影:杉村和男
場所:篠山・瀬戸黒森・大黒山方面 撮影:杉村和男
場所:篠山・瀬戸黒森・大黒山方面 撮影:杉村和男
場所:八面山・三本杭・高月山方面 撮影:杉村和男
場所:八面山・三本杭・高月山方面 撮影:杉村和男
場所:大野ヶ原・笠取山方面 撮影:杉村和男
場所:大野ヶ原・笠取山方面 撮影:杉村和男
場所:男蛇渕 撮影:杉村和男
場所:男蛇渕 撮影:杉村和男
植物名:サクラツツジ 撮影:山岡重隆
植物名:サクラツツジ 撮影:山岡重隆
キシツツジ_その1_山岡重隆
キシツツジ_その1_山岡重隆
キシツツジ_その2_山岡重隆
キシツツジ_その2_山岡重隆
ニオイタチツボスミレ_杉村和男
ニオイタチツボスミレ_杉村和男
コミヤマスミレ_山岡重隆
コミヤマスミレ_山岡重隆
サギゴケ_山岡重隆
サギゴケ_山岡重隆
サクラツツジ_杉村和男
サクラツツジ_杉村和男
サクラツツジ_山岡重隆
サクラツツジ_山岡重隆
ナガバタチツボスミレ_杉村和男
ナガバタチツボスミレ_杉村和男